テキストマイニングの手法
ビジネスでの近未来展開(データマイニングとの連携が基本)
まず、主要3分野(マーケティング、品質向上、顧客対応)における直近のビジネス展開について、解説するが、その基本はデータマイニングとの連携にある。既に、第2章で述べた様に、テキストマイニングとデータマイニングとは完全な補完関係にあり、両者を統合する事で初めて顧客の挙動を捉える事ができるのである。
つまり、文書情報では顧客がどんな苦情や要望を言っているのかは分析できるが、その結果として顧客が購入したのかあるいは解約したのかを判断するには、数値情報が不可欠であり、数値と文書の両情報を統合して分析する事が必須となっている。テキストマイニングでは、数値情報を属性情報として取り込んで、クロス分析を実現しており、簡便に「顧客の声」と様々な数値情報との相関の有無をチェックする上で、非常に有効なツールとなっている。また、データマイニングでは、「顧客の声」の分類結果を数値データとして抽出し、他の数値情報と共に分析する事で、両者を加味した統合分析を実現している。
こうした統合分析の考え方と事例は、既に金融業、通信・サービス業や製造業において、実用が始まっていると同時に、多くの分野からの問合せが相次いでいる。
この際の大きな課題は、テキストデータと数値データを揃えて入手できるかであり、現実には両者を大量に用意できる例は、意外と少ないのが実状である。しかしながら、これはこれまでに数値と文書情報を同時に分析すると言う発想そのものがなかったために、データ収集をしていなかった事によるものであり、その多くは時間の問題である事から、今後はテキストマイニングとデータマイニングの連携が、急速に展開するものと予想されている。
また、上述した統合分析環境については、2002年7月にコンパックコンピュータ(株)が、先鞭を切って商品化している。同商品では、VextMinerで分析した結果をすぐにSAS用のデータセットとして出力する機能を装備する事で、SAS Enterprise Minerとの連携分析をシームレスに実現しており、テキストマイニングとデータマイニングとの統合を、一層加速するものと期待されている。
1) マーケティング戦略
今後のマーケティングにおけるテキストマイニングの活用ポイントは、ブランド構築プロモーションとWebマーケティングでの展開の2点である。
まず、ブランド構築戦略での活用に関しては、(株)電通において適用拡大が進んでおり、コンテクスト・ブランディングと呼ばれる手法が、食品、家電、自動車等の広い分野で適用される状況となっている。
本手法は、顧客の心理におけるブランド知識の連想性を、コンテクスト(文脈)として抽出して構造化し、そのブランド構造に対して戦略的なプロモーションを行って、ブランドの強化と維持を実現するものである。解り易い事例としては、CPUの優秀さと信頼性を強く印象づける事に成功した「インテル入ってる(intel inside)」が有名である。このプロモーションにより、一般顧客の心理に、「パソコン⇒CPU⇒インテル⇒高性能・高信頼性」と言うコンテクストが強く形成された事により、高い技術力はあったが部品メーカに過ぎなかったインテルが、「ブランド」としての地位を築く事ができたのである。
こうした一連の活動を行う上では、ブランド知識を始め各種アンケート情報等の大量のテキスト情報を分析して、その関連性や連想性を明らかにする必要があり、その支援ツールとしてテキストマイニングが活用されているのである。
本手法の最大の特長は、従来解り難かった「ブランド」とは何であるのかを明確に定義し、その構築プロセスである「ブランド」のコントロールや評価をより定量的に実施する点にある。そのためには、テキストデータ(定性情報)と属性情報(定量情報)の両者を分析して、「ブランドイメージ」の特徴を抽出する事が必須となっている。また、実務レベルでは数千件規模のテキストデータを扱う事になるため、テキストマイニングによる分析支援により、初めて現場での活用が具現化したのである。
マーケティング分野における知識共有に関しては、これまでマーケッターの個人的ノウハウに依存する部分が大半であったため、これを実現する事は困難であったが、今後は本手法を含めて、テキスト情報を定量化し、その結果を踏まえたプロモーション活動が一般化するものと考えられるので、各処理プロセスが明確になり、得られた情報や知識を蓄積・共有する事が可能になった点でも画期的な成果につながると期待されている。本手法は、こうした潮流を主導するコンセプトであると同時に、実務に立脚した業務プロセスでもあり、第5章―2で紹介した「業務を細分化し、体系化する」事を具現化した事例の一つである。
次に、Webマーケティングについては、当初の過大な期待に対する落胆の時期を乗り越えて、ようやく着実な成果に向けた活動が始まってきた。ここでのポイントはパーソナライゼーションとリコメンデーションであるが、数年前に米国での手法が導入されて試行された結果は、左程芳しくなく、その後に独自の手法が考案・試行され、着実な成果をあげている。
① パーソナライゼーション
パーソナライズとは、One To Oneマーケティングにおいて、顧客毎の嗜好や挙動を詳細に区分する事を指し、この区分に応じて、肌目細かいサービスを提供するものである。当初は、主としてWebサイトにおいて、ルールベースによる複雑なパーソナライズが行われていたが、そのメンテナンスや方針変更時の修正負荷が大きいため、現在は見直しの時期にきている。
一方金融、通信分野では、顧客のセグメンテーションを、顧客情報を基にしたデータマイニング&テキストマイニングで行う事が始まっている。これまでのパーソナライズの問題点として、どの程度にまで細分化するのが、投資対効果の点で最適なのかを見極める必要があったが、この手法では詳細なシミュレーションが可能となり、実務上でのバランスを実現できている。この手法のポイントは、大量の顧客情報に基づいている点にあり、解約防止や新規サービスのプロモーション等で、データに立脚した着実な成果を上げつつある。
Webマーケティングの重要性は、確実に高まってゆく事から、今後は上記のデータ立脚型のシステムが主流を占めてゆくものと考えられる。
② リコメンデーション
売り場で営業員が行う様なリコメンデーションを実現する事は、当分先の話であるが、Webサイトでは、比較的単純なリコメンデーションが、人気を集めており、実務サービスに即した成果が得られている。
この手法は、旅行や金融商品等での商品検索サイトにおいて、質問の内容に即した回答とお薦め情報を提供するものであり、単なる検索サイトとは異なっている。予め過去の質問データをテキストマイニングで分析して、数百~数千程度の分類に区分し、その分類毎に回答すべき商品とリコメンド情報を設定して、質問に即した情報を提供するものである。通常の検索では、質問の仕方で結果が大きく変わってしまうが、この方法では質問時のバリエーションを吸収できるだけでなく、提供側が見せたい情報を恣意的に表示させる事もでき、両者にとって有益な結果が得られている。当然ながら、新しい質問や新商品への対応が必要となるが、こうしたメンテナンス作業もツールを活用する事で、負荷が大幅に低減されている。
リコメンデーションの技術は、本手法を第1ステップとして、前述した「業務を細分化し、体系化する」事により、実用レベルのシステムが構築できると考えられており、早期の実現が期待されている。
2)品質向上及び商品企画戦略
これまでに、製造業を中心とする多くの企業において、顧客の声を品質向上に生かす事をキャッチフレーズに品質改善活動を進めてきたが、次のターゲットは、この声を商品企画に生かす事である。この際に、参照すべき情報として、コールセンタ等のコンタクト顧客だけでなく、Webでの風評情報を活用する活動が、家電、情報機器等の分野で推進されている。
第2章―2で述べた様に、Web風評は自社では入手できない貴重なデータを提供している。
特に、競合の不具合情報が重要である事は明白であるが、意外な事に自社製品の不満をアンケート調査する事は困難な場合があり(不満に対する改善を求められるため)、新規商品の企画を実施する上で、現状の情報(コールセンタ・営業情報、アンケート調査等)を補完するものとして、重要度が高まっている。ゴミ情報が非常に多いのも実情であり、このスクリーニングのためにもテキストマイニングが有効に活用されている。
3)顧客対応戦略
第2章において、顧客サービスの重要性について指摘したが、この傾向は今後とも強くなりこそすれ、弱まる事はないであろう。ここで、既存顧客の確保が如何に重要であるかについてのデータは米国でのデータなので、日本にそのまま当てはまるかは不明であるが、多くの分野で5%の離反率の低減が、30~50%以上の利益増をもたらしている事実からすれば、顧客を確保する活動に関してはもっと投資されて良いはずである。問題なのは、何故顧客が離反したのかを徹底的に分析し、その対応策を実施しているか否かについて、経営トップがどの程度認識しているかである。
この意味で、今後の顧客対応戦略とは、単にコールセンタの効率向上やプロフィットセンターへの転換等の部門効率化を目指すのではなく、全社として顧客の声を聞き、離反する顧客を引き留める活動を、どの様に充実し徹底実施するかが、最優先課題として位置付けられてくると考えられる。
その一例として、通販業界での返品率低減活動を紹介する。通販業では、通常5~10%の返品があるが、これは損失そのものであり、これを低減すれば即利益につながる事になる。
衣料品についての主要な返品理由は、勿論、この理由の内容は自然文で記述されており、それをテキストマイニングで分析したもの)、この中では製造不良が最も多く特にファスナーの不良が群を抜いている。当然それらの製造先は特定できるので、出荷検査の徹底を指示する必要がある。また、サイズ違いやセット不足は、梱包時のミスであり、汚れ・シミでは流通段階での汚れも指摘されていた。以上の様に、返品率の低減に関しては、当然の事ながら、製造、梱包、流通の多くの部門が関わっており、それらの原因についての対策を全社として徹底する事が重要である。しかも、返品した顧客の属性情報が判っているので、データマイニングとの連携により、返品理由と顧客属性との相関を分析して、客層別にフォローアップ活動を実施する事が可能となる。特に優良顧客からの返品に対しては、手厚いフォローを迅速に実施する事で、離反を食い留める必要があるであろう。
上記の例の様に、顧客の離反に関する情報を収集し、それを分析・対策する事は、全社レベルでの品質向上活動そのものであり、この際に重要なのは、そのターゲットを明確にし、毎月確実にフォローしてゆく事である。こうした活動は、既に金融、通信等の分野でも始まっており、顧客の囲い込みを実現する方策として、今後広く浸透してゆくものと考えられる。
(2019.05.08 公開)
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