テキストマイニングの手法
主要分野での適用手法とシステム構築
1)マーケティング戦略(アンケート分析)
図4-2にマーケティング分野での、標準的なシステム構成を示す。(図4-2:マーケティング向けソリューション) テキストマイニングとデータマイニングの統合的な分析環境を構築すると共に、その分析結果を社内で共有するシステムとして、開発する例が多い。一般に、マーケティング部門は、プロモーション企画~商品企画までの幅広い業務が対象となるが、基本となる分析業務は、アンケート分析に代表される意見分析とイメージ抽出であり、ここではWebでのパソコンの購入動機に関する調査の事例を紹介する。
本調査は女性500人に対して行なわれ、画面に表示された3種類のパソコンについて、「次に買いたいパソコン」を選択し、「その理由」をフリーで記入させるものである。分析の視点としては、各パソコンに対する購入理由を分析すると共に、全体での購入動機を把握するものであり、各々の結果を、図4-3:マーケティング情報分析(1)及び、図4-4:マーケティング情報分析(2)に示す。
図4-3では、パソコンAについての回答をクラスタリングし、回答の多かったクラスタ4及び5のグループに対して知覚マップを作成し、図に示す代表的メッセージを抽出している。次に、回答者全員のデータを基に、スキャッタリングで分析を行なった。図4-4での左の図では、横軸を「持ち運びに便利」、縦軸を「デザインがかわいい」と設定しており、全体として縦軸方向に分布が偏っている事から「デザインがかわいい」方を重要視している事が判る。次に、縦軸はそのままで、横軸を「今使っているものと同じ使い勝手」と変更して見た所、右図での分布はほぼ45°方向となったため、この両者は同等レベルと判断された。こうした分析を行なって、女性がパソコンを購入する際の動機の主要因をまとめている。
以上より、この調査では次の結果をまとめる事ができた。
1. 3種類のパソコンに対する女性の選定基準
2. パソコンの購買動機の主要因
<従来のアプローチとの比較>
上記の分析結果に関して、クライアントからは「従来になく判り易い」との評価をもらっているが、これまでの手作業による分析手法では、分析結果の根拠や分析プロセスを示す事は困難であった。
つまり、従来の調査手法では、前述の分析プロセスを全てプランナーの頭の中で行なっていたために、アンケート結果からのサンプルデータを示す事はできても、分析の途中計経過や統計的データの裏付けを示す事ができず、結論である「プランナーが主観的に抽出した代表メッセージ」の必然性をクライアントに納得させる事が困難な場合が多かったのであった。(また、当然ながらプランナーにより結果の質が、大きく異なる点も指摘されていた。)これに対し、本手法では統計的データをベースとした上で、プランナーの判断を加味した結論を導出できるために、プランナーとクライアントの両者でその判断や分析プロセスの妥当性を共有できることになり、両者の認識を共有する事ができるのである。
また、既に前章(第3章―4-3)で述べた様に、本手法のポイントはプランナーのセンスや感覚を生かすプロセスを用意している事であり、人間だけが持つ創造的能力をシステムが支援すると言う基本コンセプトを具現化したものである。
以上の状況から、本手法は、一般の市場調査活動において用いられているアプローチを、実態に即して支援する方法として適用拡大が進んでいる。また、別な観点から見れば、本手法はプランナーの「頭の中のプロセス」をシステムとして手順化したものであり、第2章-2で紹介した「業務を細分化し、ルーチン化する」事を実践した事例でもある。
2)品質向上戦略
図4-5に、品質向上戦略分野での、標準的なシステム構成を示す。(図4-5:品質情報向けソリューション) この分野は、一般の製造業(特にコンシューマ向け商品)において、解り易いソリューションとなっているが、製造業に留まらず金融、通信・サービス分野でも、同様のシステムが稼動している。本システムは分析系と検索系に区分され、分析系は前述のマーケティング戦略とほぼ同等であるがカテゴライズ機能が主要な役割を担っている。また、検索系は、過去の不具合の対応や原因調査及び類似クレームの有無等を調べる際に用いられる機能であり、数百万~数千万件にのぼる大規模データの高速検索を実現している。この分野では既に、第1章-4-5でキヤノンの事例及び、第2章2-1で三井住友VISAカードの事例を紹介しているので、ここでは通信サービス業の事例を紹介する。
本事例は、コールセンタでの問合せの分析及びレポーティング業務への適用であり、月次の問合せ件数は、1~2万件程度であった。これまでは、5人の担当者が2週間かけてレポートを作成していたが、テキストマイニングの導入により、1人の担当者が1日で、分析及び今月のトピックスを含む月次レポートを作成できており、現在はウィークリーレポートとして実施されている。
図4-6に、問合せの分析例を示す。(図4-6:通信・サービス業での事例)
マクロな集計では、苦情が全体の30%程度となっているが、その内訳について毎週毎に詳細分類しており、図はワン切りコールの被害が急増した際のものである。前週ではこうした傾向は見られなかったため、予兆を見出すには至らなかったが、この結果に基づいて早急な対応を実施できている。同センタでは、この活動を継続し、対応をフォローする事により、半年間で苦情件数が15%低減したとの報告がなされており、顧客対応の質が向上したとの評価を得ている。
また、これと同様に解約理由の調査も実施しており、以下の多面的な分析を実施して、対策を施している。
1. 解約前の問合せを分析する事により、解約の予兆を見出す。
2. データマイニングとの連携により、解約理由と顧客属性との関連を分析する。
なお、参考のために、検索系(Category Search)について補足する。本システムは、数百万~数千万件の大規模データを概念検索するシステムであり、大企業を中心とした適用拡大が進んでいる。(図4-7:Category Search)
本システムでは、予め設定された属性情報(製品名、年月、国名等)を絞り込んだ上で、概念検索を行なうものであり、付属機能としてのキーワード設定、類似文書検索、ハイライト表示等のサポート機能が用意されており、スピーディかつ肌目細かな検索サービスを実現している。
3)顧客対応戦略
図4-8に、顧客対応戦略分野での、標準的なシステム構成を示す。(図4-8:顧客対応向けソリューション) 対象となる業務は、コールセンタ、メールコンタクトセンタの業務全体となるため、図中に示す3つのサブシステムから構成されている。まず、中核となるのがReplyMinerであり、顧客からのメール(テキスト化された問合せを含む)を詳細に分類し、内容に応じた配信を行なうシステムである。通常のコールセンタで必要とされる分類数は300~500程度であるが、この様なレベルの詳細な分類を実現するには、前章で紹介した自動分類機能なしには不可能と言って良い。ReplyMinerは、内容に応じて分類するだけでなく、個別のカテゴリ毎に配信先や添付文書等のアクションを設定する事で、自動配信を行なう事ができる。例えば、「カテゴリAは、回答文Bを添付して自動回答する」、「カテゴリCは、担当のDさんに配信する。」、「カテゴリXは、担当部署Qに転送すると共に、W課長にも配信する。」と言った処理を設定するものである。(図4-9:自動回答と回答支援機能)
この様に、詳細な処理手順を明確にするメリットは、以下の2点であるが、一般に「業務を、細分化し体系化する」点に関しては、より本質的な検討が必要であり、これについては、第5章-2で詳述する。
1. ルーチン化できるものとできないものが明確となり、オペレータが重点化すべき業務内容が明確となる。
(必ずしも、内容の難しさではなく、対応時のバリエーションの多さがポイントである。)
2. 各処理プロセスの処理量が明確となり、内容別に人員配置を最適化する事ができる。
次に、顧客からの問合せ件数を減らす方法として、Web上でFAQを公開するSelf Helpが有効であるが、これを概念検索で実現するのが、VextSearchである。大量のFAQに対し、思いつくままの質問を入力するだけで、該当する文書が検索できるため、特に初心者に対しては非常に有効である。
上記の2システムのバックヤードで分析を担当し、FAQの作成支援や「最近の問合せトップ20」と言ったレポート作成を支援するのがVextMinerである。システムの立上げ時での、詳細なカテゴリ設定に不可欠である事は勿論として、メンテナンス時では「その他」の分析による、新たなカテゴリやFAQの設定を効率的に行なう上で必須の機能である。また、顧客の動向を把握する意味で、最近の問合せ状況として月次もしくは週次での報告書作成支援に有効であり、この業務に特化した単独ツールとしても、広く活用されている。(この作業は、クエリーマイニングと呼ばれている。)
表4-1に、顧客対応業務に対するテキストマイニングの導入効果を示す。表より、処理量の大幅な向上が見られていると同時に、メール配信業務での省人効果が高い事が判明している。また、数値では表せない効果として知識の共有化があり、最新の回答が参照できる点、最近の問合せトップ20をすぐに参照できる点、及びFAQの充実等の効果が相乗して、処理量の増加に寄与したものと考えられている。
表4-1:テキストマイニングに導入効果
項目 | 導入効果 | 「大手家電メーカでの事例」 |
---|---|---|
問合せ処理の効率化 | ・回答支援機能:1件当たりの処理時間が1/3~1/5 ・自動分類&配信機能:3~数名の省人効果 (自動回答では、20件/秒の処理が可能) | ・処理量UP:30~50% ・配信業務の省人化:3~5人 |
知識の共有化 | ・回答事例の共有による回答レベルの均一化 ・教育費の低減(新規オペレータの支援) ・逐次更新機能により、常に最新情報の利用が可能 |
・新規オペレータの即戦力化 ・新規問合せへの迅速対応 (数値はないが、最大の効果) |
分析機能による効率化 | ・主要問合せの把握と対応整備の迅速化 ・自動分類でのメンテ作業の容易化 |
・FAQ整備のサイクル短縮 1weekを2日に短縮 |
(2019.05.08 公開)
本書又は本コラムに関する一部あるいは全部について、ベクスト株式会社から文書による承諾を得ずに、
いかなる方法においても無断での引用・転載・複製等を行うことは禁じられています。
※記載されている商品名、会社名など固有名詞は各社の商標及び登録商標です。