テキストマイニングの手法

顧客の声に基づく企業戦略

 前項で述べた「顧客対応の不手際による企業ブランドのダメージ事件」が多発している状況を背景に、 企業の基本姿勢として「顧客が原点」である事を再認識し、経営トップを含めた最重点活動として「顧客重視」を推進してゆく動きが、様々な分野で活発化している。 (図1-2:顧客の声を経営に生かす)図1-2に示す様に、こうした企業の多くがまず取り組むのが、苦情・クレーム対策であり、その理由は「何故こんなクレームが来るのか?」 及び「何故減らないのか?」と言った点を追求することにより、顧客の実態や企業の実力が浮かび上がってくるからである。例えば、 操作マニュアルや業務マニュアルを如何に改善しても、肝心の顧客や担当者がほとんど読んでいない状況では何の効果もないが、 こうした実態は「苦情・クレームの分析とその対策フォロー活動」を実施して初めて浮かび上がってくるものであり、 真の対策に結びつける最短コースであると考えられているからである。勿論、こうした活動は最初の1歩であり、 様々な市場調査や顧客への対応活動を通じて、真の顧客ニーズへ対応すべくスパイラルアップしてゆくのが最終目標となる。  この活動で、顧客の「不平、不満」は即対応し、「要望、意見」は次期商品やサービスに折込む事になるが、ここで重要なのが前述した少数意見の抽出であり、 これに関しては本章の4項で具体事例を基に解説する。 この様に、テキストマイニングを活用する背景としては、大量の「顧客の声」を迅速に分析し、 素早く対応する事で顧客満足度を向上すると同時に、社員のマインド向上策として常に「顧客の声」に接しさせ、自立的な活動を促進させる狙いを実現しようとするものである。

 一般に、テキストマイニングが企業戦略において活用される主要な場面は、以下の3つである。(図1-3:顧客の声の分析と活用)

1)マーケティング戦略

 市場調査でのアンケート分析に代表されるものであり、最近多用されている自由記述のアンケートにより顧客の本音を効率的に引き出し、 次期のマーケティングに活用するものである。分析内容としては、主要な意見の抽出と同時に属性情報とのクロス分析を実施する事が重要であり、 例えば「何故このパソコンを選んだのですか?」と言う問いに対する回答を分析して、 20代の女性の70%が「デザインが可愛い」点を最重要視しているとの結果を得るものである。さらに、 「ビタミンCについてどんな事を連想しますか?」とか「あなたにとって理想の肌とはどんなものですか?」と言ったアンケートを分析して、消費者が持つイメージを抽出し、 その関連性の強弱を判断する事も重要な課題となっている。

 また、一般の企業において日々収集される営業日報の分析もこの範疇に入り、様々なプロモーションの効果判定や営業マンを通した顧客の意見分析に効果を上げている。

2)品質情報戦略

 コールセンタに寄せられる膨大な問合せや不具合情報を分析し、刻々の主要な要望・不満を把握する事で、 業務改善や経営判断の指標とすると同時に、同じ情報をマーケティング部門や商品開発部門、品質管理部門等で共有し、 「実務知識」として活用とレベルアップを推進する事により、次期商品や次期マーケティングの戦略立案に役立てようとするものである。 即ち、「どの機種でどんな内容のクレームが何件発生しているのか?」及び「そのクレームは増加しているのか?」と言った質問に即答できる分析結果を提供し、 迅速な不具合対応を実施する事で、機会損失の防止を実現している。製造業におけるこうした取り組みは極当然で判り易いと考えられるが、 元来品質とは商品としての物だけに留まらない事から、無形であるサービス業務にも適用が拡大されており、最近では金融業界での取り組みが急速に進んでいる。

3)顧客対応戦略

 コールセンタやメールコンタクトセンタにおいて、顧客との直接対応を支援するものである。

 最近では大部分の企業がこうしたコンタクトセンタを整備し、統合的な対応を推進している事からデータの統合も可能となって、  テキストマイニングによる分析&活用が容易になっている。ここでの課題は、年々20~40%の勢いで増え続ける問合せ件数に対して、  どの様に効率化するか?と共に回答のレベルアップをどう実現するか?により顧客満足度を向上する事である。この課題に対しては、多面的な対応が必要であり、  テキストマイニングは以下の3点で効果を上げている。

   

①最近増加しつつある電子メールによる問合せに対し、内容別に自動分類する事で、自動回答可能な 内容は自動返信し、それ以外は内容別に担当者に振り分けを行なう。

②担当者に対してシステムは、過去のQ&Aデータより関連の高い候補を提示し、その候補を簡便に 修正する事で、回答の効率化とレベルアップを実現する。

③FAQ(Frequently Answer and Question)を公開してWeb上で検索可能とし、自分自身での解決を 促進する。この際に、従来のキーワード検索ではなく自然文による概念検索機能が効果的である。

 上記の活動は、「顧客の生の声」を収集・分析し、これを直接的に経営に生かそうとする活動であり、 これらの動きは、企業戦略として「多数の顧客との緊密な関係を維持・発展させる事」を経営の中核とするCRMやeCRMの基本となるもので、 その際には大量の「顧客の声」(即ち、テキスト情報)を如何に迅速かつ的確に分析するかが、最も重要なポイントとなってゆく。 つまり、今後の企業活動においては、「顧客の生の声」を生の内に、「素早く」しかも「きめ細かく」対応できるか否かが、 問われることになり、市場における最も重要な競争力となってゆくと考えられる。

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(2019.05.07 公開)

本コラムは、2002年リックテレコム社出版 石井哲著作「テキストマイニング活用法 顧客志向経営を実現する」から引用しています。
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