テキストマイニングの手法

業務を細分化し、体系化する

 第2章―2において、「IT技術は業務を細分化し、ルーチン化するものである。」とのP.F.Druckerの指摘を紹介したが、テキストマイニングを実務に活用する事とは、まさにこれを実践していく事にならない。 ここで、マイニングと言う言葉により、多くの人々が「隠された事実の発見」を期待する傾向があるが、あくまでもそれは結果でしかなく、必ずしも初めから新発見を目指して分析を行なうのではない事に注意を喚起したい。元来、マイニング=採鉱とは地道で根気の要る分別作業の連続であり、その結果として新規発見につながるだけなのである。テキストマイニングを新たな魔法のツールと考え、データを大量に入れさえすれば新規発見の御宣託が出る事を期待する人々が、僅かながらも存在する事は事実であるが、浅はかな願望に過ぎず厳に戒めたい。(知識発見の支援については、7章参照)

実際、テキストマイニングの分析作業は、「文書情報の処理フローを細分化するもの」であり、これをコールセンタでの問合せ情報の処理を事例に解説する。
まず、顧客からの問合せを詳細に分類し、個々のカテゴリー毎に処理手順を決定していく。自動回答できるものは、定型回答文を設定して最終回答メールを作成し、そうでないものは内容別に各担当に振り分けると同時に、過去の回答事例より最も代表的なものを参考として提示する。また、どのカテゴリーにも属さない新しい問合せは「その他」に区分されて管理者が対応する事となる。当然、内容によっては他部門への確認を必要とするものもあるが、そうした手順をきちんと記述して蓄積する事が重要となる。
 この様なシステムが稼動する事の最大のメリットは、個別の処理手順毎にデータが着実に蓄積される事(正しかったものと修正を要したものを含めて)であり、このデータによって処理手順の修正や例外処理への対応が数量的に明確になる事である。こうしたデータがない状態では、主要な処理内容に対しては、主観的であっても対応策をリストアップし決定できるが、少数の例外処理については全てに渡ってリストアップする事は不可能なので、結局の所、発生した都度に熟練者の判断に頼らざるを得ない状況となてしまい、改善の手がかりを得ることが出来ないのである。

 つまり、この様なプロセスの細分化とデータの蓄積により、自動化もしくは人による判断の大幅な簡素化が可能となり、業務全体をルーチン化する事が可能となる。しかも、業務全体がどの様なプロセスから構成され、そのプロセス間の関連(=フロー)がわかるために、業務全体のフローが判明してくる。この業務フローが数量的に捉えられることにより初めて、無駄なプロセスの存在や、より効率的なフローへの改善の視点が明確となり、業務全体を効率的な体系に再構成する事ができるのである。即ち逆の言い方をすれば、ルーチン化できるまでに細分化できる事が、当該業務をシステム化する上での最大のノウハウであると言える。

 以上より、テキストマイニングによる業務の支援と効率化手法をまとめると、以下の4点となる。

①業務を単一のプロセスに細分化する。(細分化できる事が最大のノウハウ)
②細分化された各プロセスでの履歴データを蓄積する。
③蓄積データを基に、分類精度を向上すると共に例外処理のフローを整備する。
④上記に基づいて、各プロセスの再構成を行ない、業務全体を体系化する。

上記の考え方は、より一般の文書処理業務にも適用できるだけでなく、ルーチンで流れる設計業務等などへの適用も検討され始めている。これまでは、複雑で例外処理が多いため、コンピュータの支援には不適と考えられてきた様々な知的業務も、手順の細分化が行なわれる事により、誰でも同レベルの業務をスピーディにこなす事が可能となるのである。実際、一般の業務における専門ノウハウを紐解いてみれば、数百程度のパターンに分類されて「案外こんなもの?」となる場合が多いのではないかと推定される。
 この事は、一見テキストマイニングと無関係ではないか?と思われるかも知れないが、この観点は、知的生産性の向上を考える上で極めて重要なコンセプトとなる。通常、担当者が「自分の業務は千差万別で、ルーチン化できない」と、一括りにしてしまう様々な事務処理や報告作業、設計業務等が、実際の所は数十~数百程度の小プロセスに分解されてしまう事が、明らかになりつつあるからである。しかも、そうした小プロセスであれば、その判断は容易になり、テキストマイニングにより支援する事も可能な範囲となってくるからである。
 P.F. Druckerによれば、「得るべき成果を明確にしない限り、生産性の向上は望めない」のであるが、これまでは一般的な知的業務プロセスにおける成果とその目標を明確にする事は、かなり困難であった。勿論、「処理件数を2倍にする」とか「新規顧客獲得件数を50%アップする」といった大まかな目標設定は簡単であるが、その個々の実行プロセスにおける明確な目標とその達成手段が提示されない限り、その様な目標は単に掛け声のみで終わってしまうのが通例である。つまり、知的生産性の向上を実現するには、精神論ではなく新しいやり方とその根拠を示す必要がある。誰もが実現できる方策を提示する必要があり、それが「細分化と体系化」である。勿論、この手法は全ての知的作業にあてはまるのではなく、言わばルーチン業務に近い処理作業を対象としている。


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(2019.05.08 公開)

本コラムは、2002年リックテレコム社出版 石井哲著作「テキストマイニング活用法 顧客志向経営を実現する」から引用しています。
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