テキストマイニングの手法

テキストマイニングが実現する顧客志向経営:顧客情報直結構想

1)「顧客の声」を最重要視する

 前述した様に、「顧客の声」に対しては大部分の企業が的確に対応できていないのが現状であるが、どの企業も最初はそうでなかったはずである。顧客を大事にする事は極自然なビジネス行動であり、起業当初の顧客で数百人規模を相手にするのであれば、何ら問題はない。顧客の顔と性格はほぼ掌握できており、個々の顧客毎に適切できめ細かな対応が容易に実現できる。しかし、企業の成長につれて顧客が大幅に増大すれば、個々の顧客の顔は見えなくなり、その反応は売上という数字でしか現れなくなってしまうのである。これを補うのが、コールセンタであり、顧客対応を専門的に実施する部門であるが、その問題は以下の通りである。

コールセンタ業務として、個々のクレーム・不具合への対応は実施するが、「顧客の声」全体に対して、包括的な分析や統合的な対策はとられていない。

 つまり、個別問合せの対応に終始しており、全社的な視点で顧客対応活動を展開できていない状況であるが、前述の通り米国においても、これまではこうした統合的な対策が必要であるとの発想そのものがなかったのである。また、コールセンタが単なる「苦情受付の窓口業務」と見なされている状況は、「コールセンターをコストセンターからプロフィットセンターへと転換する」という根拠のない掛け声に対し、有効な反論ができていない主要原因でもある。つまり、既に述べた様にコールセンタは元々「プロフィットセンター」であり、単にその売上貢献額の算定方法が良く判らないだけなのである。
したがって、企業と顧客を繋ぐ窓口であるコールセンタは、今後益々その重要性を増してゆくと同時に、その対応レベルの向上が「リピート顧客の確保」と言う点で経営基盤を下支えすることになる。さらに、コールセンタで蓄積される情報は、競合他社では絶対に入手できない貴重な情報であり、これを宝の山として捉えて、誠実に対応する事が企業経営の根幹を形成する活動となってゆく。 第1章で紹介したキヤノン(株)の事例は、こうした狙いを先駆けて実現する取り組みとして多くの事業分野のトップから高い評価を得ており、見学者が後を立たない状況となっている。
即ち、「顧客の声」を最重要視するとは、以下の施策を実施する事に他ならない。

1)顧客対応をコールセンタで一元化し、その対応履歴をテキスト情報として蓄積する。
2)対応履歴の内、クレーム・苦情・問合せ等の情報を品質情報として抽出し、少数意見を含めて、詳細な分析を継続的に実施し、その結果を役員から担当者に至るまでの全社で共有する。(分析担当の人材育成や組織の設置が必要)
3)分析結果に対応して担当部門毎に、各々の対策を立案・実施すると同時に対策効果の有無をチェックし、進捗状況を把握する。(全社での活動状況の推進及び進捗管理を担当する部署も必要)

 こうした新たな施策に対しては、当然現場からさまざまな反論が巻き起こることになる。まず素朴な疑問として、何故全件に対する分析が必要なのか?サンプリングでも十分ではないか?と言う議論がある。現在、大多数の企業での不具合報告は、こうしたサンプリングにより行われているが、その欠陥は次の4点にある。

1)担当者が一度に読む量には限界(1000件程度)がある上に、適切な抽出方法がないため、「声の大きい」不具合を重要視する傾向にある。
2)チェック対象件数が少ないために、対策効果を十分に判定できない。
3)少数意見への対応ができない。
4)不具合内容の分類が粗く、具体的な対策に結びつくまでに至っていない場合が多い。

 勿論、サンプリングを無作為抽出で行って、統計的な信頼性を確保する事は理論的に可能である。しかしながら、実務として読む量には限界がある上に、分析対象がクレームや不具合と言う微妙な問題である事から、通常は担当者が主観的に抽出する場合がほとんどであり、この際に「声の大きい顧客」や「声の大きい管理職」の判断に左右されてしまいがちになるのであって、この傾向は担当者の主観に頼る以上避けられないものである。
 つまり、個々の不具合を読んでいるプロセスにおいて、重要か否かの判断は、その不具合に対する顧客の怒りの程度であり、それを抽出する事自体は正しい判断である。しかし、不具合全体への対策をどう策定すべきかと言う観点から見れば、「怒りの程度」で分類するのではなく、「不具合の内容」で分類し、その重要度は「内容の緊急性」と「件数の推移」から判断するべきであり、明らかに抽出する上での観点が異なっている。しかも、大量の情報の中から「少数の不具合」をも抽出して対応を検討しなければならない状況では、人力でこうした膨大な作業を実施する事は全く不可能であり、テキストマイニングの支援があって初めて大量の「顧客の声」を詳細に分析できるのである。
 しかも、テキストマイニングの支援を必要とする理由は、量的なものだけでなく、分析結果の質的な向上をも意味しており、前述した「詳細な分析」とは、具体的な対策に結びつくレベルにまで、詳細に分類する事である。通常ありがちな不具合の月次レポートとして、接客不具合:25%、製品不良:15%等のマクロな区分で報告される事が多いが、この様に大雑把な区分では何ら対策に結びつかない。(勿論、こんな報告を受ける経営側の責任も重大である)
 接客上の不具合であれば、「回答をたらい回しにされた」が105件、「○×処理が間違っていた」が65件、といった具合で、「どんな顧客に対するどの様な不具合か?」、製品であれば「何製品のどんな不良であるか?」が明確になり、「責任部門は何処で如何なる対策を取るべきなのか?」がある程度想定できるレベルにまで、ブレークダウンされていなければ分析して報告する意味はない。
 この点で、こうした品質情報全体を、どの程度のカテゴリー数で分類すれば実用になるのかを見出す事も大切なノウハウの一つである。これまでの経験では、平均的に一つの製品群であれば50~80カテゴリー程度であり、コールセンタ全体では300~500になっているが、この程度にまで詳細に区分している例はまだまだ少なく、詳細に区分できる事自体がその事業に対する造詣の深さを物語っていると考えられる。勿論こうしたカテゴリー数は、業務の内容や事業分野により、大きく異なってくるのが当たり前であるが、20や30で事足りると考えるのは実務を知らない人間であると言われても仕方がない。
 以上をまとめれば、テキストマイニングの支援があって初めて大量の文書情報を詳細に分類する事が可能となったのであり、文書情報の分析作業における「量と質」を大きく向上させたと言って良いと考えられる。 又、この議論を一般化すれば、「IT技術は業務を細分化し、ルーチン化するものである。」とのP.F.Druckerの指摘に帰着する。(参考文献6)
 元来、コンピュータ化とは複雑な業務体系を細分化する事で、自動化もしくはコンピュータの支援をし易くするものであるが、前述の「どこまで詳細に区分すればよいのか?」と言う問題もこの一環であると捉える事ができる。つまり、これまでは人間でなければ対応できないとされていた複雑な事務処理も、事細かく分類して行けば、細分化された業務モジュールの組合せである事が浮かび上がってくるのである。
 既にテキストマイニングは多くのトップ企業で活用されているが、これまでの経験では各業界におけるトップ企業は押しなべて、こうした事実を暗に認識しており、分類すべきカテゴリーの基本情報を保有している場合が多かったため、こうした知識を蓄積しているか否かが、トップと2番手以降との大きな相違となっている可能性が高いと推測される。つまり、トップと2番手に於いて、人材の能力レベルに大きな違いはないが、「業務の細分化に関する知識」により、当該業務に関する組織的な運用・マネジメントの面で決定的な差が生じており、これがトップ企業の強さの源泉になっているものと考えられる。
 この観点からすれば、知的生産性の向上を実現するには、個々の業務のルーチン化を極限まで推進して、コンピュータの支援を最大限に引き出す必要があり、こうした傾向はIT化がさらに進展するに従って益々明確になってゆくものと予想される。現在の所ではまだ顕在化していないが、社会の底流としてIT化が推進するこの大きな流れが存在するが故に、テキストマイニングが有効であると評価されているのである。

 また、全社活動として「顧客の声」への即応活動を推進するにあたっては、何らかの業務責任部門を設ける事が重要となる。CS(Customer ServiceもしくはCustomer Satisfaction)を推進する責任部門として、全社の関連部門に対して具体的な目標設定を行ない、個別の対策実施と結果への責任を明確にして、その進捗と効果確認をフォローするものである。CS活動はややもすれば一過性に終わってしまう危険性があるが、こうした活動こそが「継続は力なり」であり、長期に渡る努力と改善の蓄積を行って初めて大きな効果を発揮するものである。この意味で、経営トップが持続的にCS活動に直接関わる事が重要であり、明確なメッセージを発し続ける必要がある。
 この様な全社に渡る取組み体制を業界に先駆けて実現したのが、三井住友VISAカード(株)の事例(図2-1:三井住友VISAカードの事例)であり、「顧客重視」の企業姿勢を内外に強く印象づける事に成功している。その詳細は第6章で紹介するが、ポイントは次の3点である。

①従来、金融に代表される「サービス業務の品質とは何か?」についての明確な指標は存在し なかったが、同社は世界で初めて、その品質指標として「顧客の声」を採用したのである。これが製造業であれば、前述のキヤノン(株)の例の様に極自然であるが、サービス業務と言う無形の業務に対しても、「顧客の声の分析=テキストマイニング」が非常に有効である事を 実証した点は重要であり、類似する業種(行政、教育、医療、マスコミ等)への波及効果が大きいと考えられる。

②金融業界では、クレームや不具合情報はイメージダウンにつながるものとして、社内・社外を通じてオープンな取り扱いをされていなかったが、これを打破して「顧客の声」に誠実に対応する仕組みを全社レベルで構築し、真正面から顧客指向経営を目指している。この先進的な取り組みは、マスコミを通じて広く報道され、業界でも大きな関心を呼ぶと同時に、顧客を大切にする同社の企業姿勢を広くアピールした。(その宣伝効果だけでも極めて大きいと推測されている。)

③カードビジネスの特徴として、顧客属性(顧客の年齢、収入、購買履歴等のプロファイル情報)に関する情報を容易に活用できるため、顧客の声の分析(テキストマイニング)と顧客プロファイルの分析(データマイニング)を統合した分析を、実務で初めて実現した。これにより、「40代の主婦にはどんなクレームが多いか」、「○×クレームを言ってくる顧客はどんな客層なのか」が素早く分析できる様になり、的確な対応が可能となっている。

 以上をまとめて、表2-1(「顧客の声」への対応活動)に示すが、この5項目により「顧客の声」を迅速に収集・分析し、即応して行く事が可能となる。
  特に、第5項の「情報の公開と共有」は極めて重要であり、役員から担当者に至るまでの全社員が同じ情報を共有し、「顧客の声」に対して、日々活動を重ねて行く一体感こそが、企業の活性化を実現する原点であると考えられる。


表2-1:「顧客の声」への対応活動

1 コールセンタでの「顧客の声」の蓄積と一元管理
2 クレーム・不具合の詳細な分析
3 関連部門にまたがる対策立案
4 対策の進捗フォローと効果把握
5 上記の情報の公開と共有

 以上の記述ではクレームや苦情などの品質情報に重点をおいたが、同様のやり方を「顧客の要望・意見」に適用すれば、マーケティング分野で活用できる。但し、コールセンタでの情報は既存商品に対する苦情に限定されてしまう場合が多いので、表2-2(マーケティングでの顧客情報の分析)に示す様々な情報源を組合せて分析する事が通常である。 また、これまで述べた「顧客の声」情報の区分とその活用方法について、図2-2(顧客の声への対応と活用)にまとめた。


表2-2:マーケティングでの顧客情報の分析

No 情報源 分析内容
コールセンタでの問合せ 既存顧客からの苦情・不具合が主体
アンケート 既存、新規を問わず、市場調査として広く実施されている。 フリーアンサーによる、本音の抽出が主目的であり、アンケートの設計も重要ポイントとなる。
Webでの風評 Webでの掲示板やチャットの中では、様々な議論が行なわれており、こうした風評を抽出・分析して、マーケティングに活用する。(例、デジカメの製品比較等)

 ここで、最近関心が高まっているWeb風評の分析について、コメントしたい。図2-3(Web風評分析)に示す通り、この情報源の最大の魅力は、「顧客の本音が赤裸々に語られている点」(第2章-1参照)と自社では入手できない「競合他社ユーザの不満」を知る事ができる点にある。しかしながら、こうした風評は膨大な件数(数千万件レベルに達している)であり、その中から有用な情報を如何に精度良く抽出するかが大きな課題となっている。勿論、この規模の情報量を人力で処理する事は不可能であるため、テキストマイニングを駆使して効率的に狙いとする発言を収集して分析する試みが、多くの事業分野で始まっている。

2)テキストマイニングの導入方策

前項で「顧客の声」情報を収集・分析する事の重要性を指摘したが、本項ではこうした新しい情報や知識を活用する方策について述べる。どんな企業においても、新しい手法には激しい抵抗がつきものであり、少数の目覚めた人材を活用して抵抗勢力との戦いに勝利してゆく以外にない。 テキストマイニングはこれまでに存在しなかったので、当然ながらこれを用いなくとも現実の業務は遂行できる。しかも量の改善ではなく、「質の向上=知的生産性の向上」を狙いとしているため、従来の「情報の活用を目指した活動:皆で使いましょう!方式」の単なる促進活動ではうまくゆかない。その理由は、テキスト情報処理に関する専門的な知識と、当該業務の改善に対する高い意欲の両方が同時に必要であるからである。このため、実務に立脚したコンサルティング方式が有効であり、実業務の担当部門とテキストマイニングの専門家によるプロジェクト活動が、様々な事業分野で進行している。

 ここでは、まずこれまでのIT化の進め方を概観する。従来は、情報システム部門が情報戦略を立て全社の情報武装を主導してきたのであり、こうしたやり方はシステムを構築しツールを与えて環境整備を行えば、後は各部門の責任で実際の活用を定着化させる方式であった。
 最初の「ワープロ」時代は、とりあえず文書を電子化しようとするものであったが、議論は紙ベースであった。書類は美しくなり、上司は書き直しを命じ易くなったが、本質は何も変わらなかった。
 次にネットワークが整備されて、「メール」時代になり、誰もがメールで情報交換するようになって、伝達と配信そして意見交換が電子化され、情報の流通が高速化された。こうしたネット社会となって、何時でも何処でも情報の受信と発信ができる様になった結果、仕事が爆発的に増えた。流通する情報量の増大に伴って、その情報に対する対応作業も増加し、時には過剰反応の場合もある事から不安定さを助長する結果となっているものの、全体としては業務のスピードアップに貢献している。
 しかしながら、こうした変化は“情報の量と速度の改善”に留まっており、それ故どんな規模の企業であっても、そのメリットを享受できた。即ち、ワープロ名人やメールの達人がいるか? 勿論それなりの人はいるにしても、その生産性において何倍もの違いがある訳ではない。つまり、量的な改善はあるが質的な改善はなく、個人レベルの業務における「必要な情報を収集して分析し結論を下す」プロセスにおいて、大きな変化はなかった。
 こうした手法に限界がある事を示すのが、序章で紹介した日報情報の共有システムである。即ち、情報を一元管理し誰でもアクセスできるようにすれば、黙っていてもその利用効率が飛躍的に向上すると言う主張には、誤りがある事に誰も気付いていなかったのである。つまり、ハイレベルの情報活用を推進するには、スキルの向上と問題意識の向上の両者が必要であり、こうした活動に対して、情報システム部門が音頭をとる事自体に限界が存在しているのである。
 元々「マイニング」とは、データマイニングとテキストマイニングの両者を含めて、大量の情報を自由自在に操るものであるが、実務を直接支援するものであるため、情報システム部門では主導できない性格の業務である。特にテキストマイニングにおいては、マーケティングや品質管理、コールセンタ等の各部門が自らレベルアップを実現しようとして活動しなければ、まず成功しない。 実現すべきは実際の業務改善であって、新たなツールの導入は単なる手段でしかなく、業務担当部門自身が「質の改善」についての具体的な目標を設定し、実行計画を遂行してゆく事が必須である。この点で早晩、情報システム部門は情報インフラの整備に注力し、その上で稼動する業務アプリは各事業部門に自由に任せる状況になるものと予想している。
 したがって、「顧客の声」への対応を目指した業務改善では、テキスト情報の処理方法に関する専門的な知識とシステム構築ノウハウが必要な事から、テキストマイニングのエキスパートによるコンサルティングが必須であり、両者が揃って初めて具現化できるものである。この意味で、意欲のある部門もしくは企業しか実現できないものであり、やる気のない企業を改善するツールではない。強い者がその規模を背景に、さらに強くなる事を支援する技術であり、元々ベースを引き上げる事を目指してはいないのである。

3)顧客指向経営:テキストマイニングが実現する顧客情報直結構想

 本章の冒頭で紹介した米国での事例は、ITバブルとも言うべき現象であるが、こうした状況(顧客不在、一方通行のサービス)から新たな企業改革の視点が見えてきており、それが顧客指向経営(Customer Oriented Management)である。

 現代ビジネスにおいて、「企業の競争力の源泉が知識」であり、「経営の原点は顧客」である事を疑う者はいない。その必然的結果として、今後の経営においては「顧客」(=CRM)と「知識」(=KM)が最重要課題となってゆくが、この2つの概念はその切り口が全く異なるために、互いに関連してはいても統合された活動としては捉えられてこなかった。しかしながら、前章にて述べた様に、これらの活動を「顧客の声への対応を中核とする活動」としてとらえてみれば、対外的に顧客に向かって活動するものがCRMであり、これを社内で様々に分析、比較検討して知識を量産する活動がKMである。(図1-17)
 この意味で、CRMとKMの両者は表裏一体の活動であると言えるが、この事はCRMやKMが本質的なものではなく、基盤となる活動は「顧客の声への対応」にある事が容易に理解されるであろう。即ち、単に「顧客重視」と言ってもスローガン倒れに終わってしまう危険性があるが、表2-1に示す5項目は、情報と業務のフローを明示しており、企業経営の基幹を示している事から、これを顧客指向経営と名づけるものである。つまり、逆な言い方をすれば、顧客指向経営の対外活動がCRMであり、社内活動がKMであると言える。
要は、「顧客の声は宝の山」であり、企業活動としては第一義的かつ誠実に対応すべきものであると共に、マーケティング・品質管理・商品開発等の全部門で活用する事で、バブリーな活動(派手で効果の不明なプロモーション活動等)を排し、地に足のついた実直なビジネス活動を推進する経営活動である。
図2-4に、これを顧客情報直結構想として示した。図では、様々なチャネルを通じて顧客からの声が企業にもたらされるが、まずその大部分はフロントであるコールセンタにおいて、適切な対応が取られてゆく。刻々変化する「顧客の声」を迅速に分析して、FAQを補充すると同時に回答支援や自動回答を推進し、さらには問合せに対するリコメンドも整備する事で、顧客対応を的確にしかも素早く実施してゆく活動である。
次に、同じ「顧客の声」がバックヤードの品質管理部門に渡って行き、不具合・クレーム情報が詳細に分析され、少数不具合を含めて対策すべき課題が抽出されて、迅速な対策が取られてゆく。これにより、機会損失を防止すると共に、クレーム費の低減が実現できる。
さらに、同じ情報がマーケティングや商品企画部門に渡り、不具合・要望・意見等の情報を分析する事で、次期商品や次期プロモーションの企画に役立てるものである。こうした活動が全体として行なわれる事で、新規の商品・サービス等が顧客に提供される様になり、その反応がまた企業にもたらされる事になって、商品と情報のサイクルがぐるぐると回ってゆくのである。
顧客指向経営とは、この様なサイクル(大きなサイクルと3つの小さなサイクルの両方)を出来るだけ素早く回す事を意図するものであり、前述の区分に従えば大きなサイクルがCRMで小さなサイクルがKMであると言えよう。
ここで、テキストマイニングとデータマイニングとの連携について述べたい。テキストマイニングは、「顧客が何を言っているのか?」を分析するものであるが、その顧客がどんな客であるかは分析できない。これに対して、データマイニングは顧客のプロファイル情報(購買履歴、年齢、家族構成等)を分析する事で、顧客の特徴を見出すものである。この2つの技術はお互いを補完するものであり、両者を統合すれば、「どんな顧客がどんな事を言っているのか?」が判明し、これまでにない新しい視点でのマーケティングが可能になるのである。
結論として、こうした「顧客情報」を企業活動に直結させる事により、日々の業務を「顧客の声」をベースとして運用して行くのが、顧客指向経営である。また、こうした活動と運営を実現する手段としてテキストマイニングが、その中核システムとして位置付けられる状況となっており、製造・金融・製薬を始めとする多くの事業分野で活用されている。

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(2019.05.08 公開)

本コラムは、2002年リックテレコム社出版 石井哲著作「テキストマイニング活用法 顧客志向経営を実現する」から引用しています。
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